住宅用の塗料にもそれなりの歴史があって、年々進化(変化)して、その都度主役となる
塗料の種類が変わってきて今日を迎えています。
塗料の簡単な歴史
わたしが塗装を始めた頃は、まだまだまだ木造住宅もたくさんあって、
木造モルタル造りの家の外壁は、セメントスタッコやセメントリシンなどの
セメント系が主流で、足場も丸太で自分たちで組んでいました。
そのうちに、足場も丸太から単管のパイプ足場に変わり、
セメント系からアクリル系の塗料に主役が変わり、
セメント系リシンはアクリル系リシンに、セメント系スタッコは、
アクリル系吹き付けタイルへと変わってきました。
さらにパイプ足場から、くさび形足場(いわゆるビケ足場)へと変わる頃には、
外壁材もモルタルからサイディングへと変化し、
塗料も、アクリルからウレタン、シリコン、フッ素へと
主役が次々に変わってきました。
しかしここ数年は、もっと高耐候性のある塗料を…!
という需要が高まったせいなのでしょうか、
フッ素よりも高耐候をうたった「無機塗料」が出現するようになりました。
無機塗料の無機ってナニ?
無機塗料の無機とは、文字通り無機物のことですが、ガラスや石ころなどの
生物に由来しない無機質な鉱物類のことです。
こうした無機物は、紫外線や、風化、侵食による劣化が少なく、
この無機物を塗料にすることができれば、
従来の樹脂塗料を凌駕する塗料になるのでは…
というのが、無機塗料の出発点だと思います。
有機物って…?
無機物がマグマなどが冷え固まってできた無機質の鉱物なのに対して、
有機物というのは、太古の生物が化石化したいわゆる化石燃料などと同じ
生物由来のものを指します。
従来からある樹脂塗料は、この有機物でできた
プラスチックなどと同じ石油製品の一部です。
こうした樹脂塗料は、全般的に紫外線に弱いという弱点があります。
そのために、紫外線の影響を受けにくい無機物を加えて耐候性を増したものが、
無機塗料と呼ばれるものです。
以前には無機物を使ったものってないの…?
以前にも無機物を混入させた塗料がなかったわけではありません。
セラミック塗料などががそれにあたると思います。
セラミックは文字通り陶磁器を指しますが、
こうした無機物を混入させることで硬質な塗膜が得られるため、
汚れがつきにくいという付加価値を加えることができました。
ただこの場合、無機物を加えても耐久性ではなく、
低汚染という機能面の付加価値が加わっただけで、耐久力という点では、
セラミックシリコンもただのシリコン塗料も同じです。
しかし、なかにはセラミック塗料だから長持ちします…とか、
丈夫です…、などと吹聴しているものもいたようですが、
現在の無機塗料のような高耐久を誇るものではありません。
無機塗料に似たもので、無機塗料の説明
これは塗料ではありませんが、古くから無機物と有機物を合体させて
現在でも使われているものがあります。
それはセメントをもとにした、モルタルやコンクリートです。
セメントは前述したように、太古の珊瑚などの海洋生物が変化してできた石灰岩が原料ですから、
れっきとした有機物です。
このセメントに水を加えてできたものを「ノロ」と呼びますが、
これだけでは強度不足なので、これに無機物の砂や砂利を加えたものが
「モルタル」です。
更に強度を上げるために石を加えると「コンクリート」になり、
鉄筋を通せば鉄筋コンクリートになるのはご存知と通りです。
コンクリートやモルタルの劣化は、セメントの劣化が原因!
モルタルやコンクリートは、人の手や機械によってセメントと砂利、石などと
混ぜ合わせて作りますが、
無機塗料というのは、分子単位レベルでの話で、分子同士の結合、分子の配列…等々の
科学的知識なしに説明することは不可能です。
しかし、もともとの原理はモルタルやコンクリートと同じように考えることが
できると思います。
それはなぜかというと、無機物だけでは塗料にすること不可能だからです。
塗料にするには、無機物を結びつけるセメントのような媒介が必要です。
そのセメントに相当するのが樹脂塗料です。
セメントは酸に弱い(セメントは弱アルカリ性なので、空気中の様々な酸化物に触れると
中性化し、強度を低下させてゆきます。)という弱点を持っています。
それと同じように、樹脂塗料は紫外線に弱いという弱点を持っています。
ですから、無機物をしっかり結びつけている樹脂塗料の材質・耐久力が、
無機塗料全体の耐久力に大きな影響力を持っています。
もちろん、分子レベルの結びつきや、配列方法などの違いも影響する
ものと思いますが、一番大きな影響力を持つのは、やっぱりセメントに相当する
媒介にどんな塗料が使われているか…が問題なのではないでしょうか。
無機塗料は、1種類だけではありません。
無機塗料と名乗る塗料は、塗料メーカー各社から発売されていて、
各社格用の特性があるようです。
そのため、耐候性を20年以上と表記する業者(当店も20年以上と表記)もあれば、
30年持ちます!と言い切る業者も存在します。
無機塗料のコストパフォーマンス
無機塗料は、他の塗料に比べると、圧倒的に高価です。
ただその金額が、仕上がりや、耐久力、低汚染、その他、素地への対応力…等々
を比較して、高いのか安いのかを知るには、10年、20年、30年…先の
結果が教えてくれるものと思います。
私自身は、20年、30年を経過した無機塗料を塗布した
外壁を見たことがありませんので、この塗料が、高いとか、安いとか、
良いとか、悪いなどと言える立場にありません。
無機塗料を採用するにあたっては、塗料メーカーによって
無機物を結びつけている樹脂の材質や、種類、分子構造などが
同じではありませんので、お客様も十分な情報を得てから
決定なさることをおすすめいたします。