外壁の塗り替えで最も大切なのが下地調整であることは、誰も否定する人はいないと思いますが、その下地調整で問題になるのが、シール材と塗料の関係です。
何が問題かというと、コーキング剤と塗料の相性があまり良くないからです。
今回はそのことについて書いてみようと思います。
シリコンシーラントと塗料の関係。
外壁にしろ屋根にしろ、その他の部分にしても、塗り替え塗装というのは、新築時の素地(モルタルならモルタルそのもの、鉄なら鉄そのもの…)に直接塗装することができません。
というか、どんなに頑張って下地処理(ケレン)をしても、すべての部分を新築時の素地に戻すことは不可能だからです。
つまり、塗り替え時の塗装というのは、基本的には新築時に塗った塗料や、以前に補修をした際に使用したコーキング剤の上にも重ね塗りすることになります。
ですから、新築時に塗った塗料の材質やその塗料の性質などを知ったうえで、新たに塗る塗料の選択をしなければならないのですが、そうした塗料だけでなく、コーキング(シール)剤の性格も理解して塗装をしないと、先々の剥離の原因になってしまいます。
以前に書いた「ジョリパットの塗り替えに、汎用塗料を使うのはNGって、ホント…!??)」も、参考にしていただけたらと思います。
そうしたコーキング剤で一番厄介なのが、下の写真にあるシリコンシーラントです。
そのシリコンシーラントを使って上記のように、換気口などの周囲にコーキング剤を充填されてしまうと、その上には塗料が喰い付きませんので、それなりの対応が必要になります。
このことは知られているようで、あまり知られてないことが、意外と多いんですよ…!
このことを知らない人は、そのコーキング剤を剥がして塗れば大丈夫じゃないの…と、軽く言う人もいますが、残念ながら剥がしても、その箇所だけでなくその周辺部分にも塗料だけでなくガムテープも付着しません。
では、現実にはどうしているのかというと、シリコンに食いつかせるための下塗り剤、俗に言う「逆プライマー」を塗布して、塗料を食いつかせているのです。(下の写真参照)
ただ、業者・職人によってはこのプライマーを塗布せずに、塗料をなんとか上に乗せるだけで、仕上がりとしていることも少なくありません。
どういうことかというと、シリコンには食いつかないと言いましたが、塗料を乗せるだけなら辛うじてなんとか乗せることができるからです…。
食いついている塗料と、乗っているだけの塗料の違いって…!?
塗料が対象物に食いついていようが、乗っているだけであろうが、塗装直後の仕上がりだけなら、どちらも同じに見えますが、塗料が対象物に食いついていない塗膜は、言うまでもなく食いついている塗膜に比べれば、遥かに早く剥がれてしまいます。
このことは、コーキング剤と塗料の関係に限ったことではなく、例えばツルツルした塗装面に塗装をする場合にも、それと同じことが起こります。
ツルツル面そのままに塗装すれば、塗料はほとんど食いつかず、ただ乗っているだけです。
そこで行われるのが、目粗しという作業。
目粗しというのは、そのツルツル面にサンドペーパーなどで、細かな傷をつけてその傷の中に塗料を入り込ませて、食いつかせるために行う下地調整のことです。
塗装における下地調整の大きな目的は、塗料をいかに下地に食いつかせるか…!で、そのために高圧洗浄や、様々な器具を使ってケレンをしているのです。
サイディングの目地のコーキング(シール)の問題点
コーキング剤の問題で一番切実なのは、サイディングの外壁ではないでしょうか…!
そのサイディングの外壁の泣き所は、サイディングそのものが木の板と同じように反ってしまうことと、目地のコーキング剤の劣化だと思います…。
特に、目地に充填してあるコーキング剤は、新築時から10年程度でヒビが入ったり、硬化して痩せて防水効果がなくなったりする事が少なくありません。(下の写真参照)
そのため、外壁の塗り替え時には劣化したコーキング剤を全て剥がし、新たなコーキング剤を充填する「打ち返し」が必要だったり、劣化の度合いによっては現状のコーキング剤の上に「増し打ち」をしたりする必要に迫られます。
さて、この打ち返しや増し打ちに使用されるコーキング剤は、前述したシリコンシーラントではなく、塗料が食いつく変成シリコンが用いられます。(下の写真参照)
こうした「塗料が食いつくコーキング剤」を充填した後も、なお問題が存在します。
それは、このコーキング剤の上に塗料を塗布すること自体の問題点です。
どういうことかというと、コーキング剤は目地が多少動いてもそれに追随できる柔軟性がありますが、塗膜にはそのような柔軟性はありません。(下図参照)
振動や地震などによって目地部分が動いても、コーキング剤そのものはそれについてゆけますが、その上に乗っている塗膜はそれについて行くことができませんので、塗膜にヒビが入ってしまう可能性があるということです。
このことがクレームになることを恐れ、その部分を塗らない業者・職人もいますが、それはそれでまた問題を抱えることになります。
コーキング剤が硬化する最大の原因は、コーキング剤が直射日光などにさらされ続けることです。
ですから、塗膜という保護膜のないむき出しのコーキング剤(新築時はむきだし)は、保護膜のあるものに比べれば持ちが悪くなります。
しかし、今度はその上に塗料を塗るとひび割れが生じてしまう可能性がある…、というジレンマを抱えているのが目地のコーキング剤と塗料の関係なのです。
そこで、わたしはお客様にこのようなジレンマを抱えていることをお話し、了解を得た上でコーキング剤の充填後、3日程度の乾燥期間をおいた後に、コーキング剤の上に塗装を施すようにしています。
モルタルの外壁のコーキング
モルタルの外壁の最大の悩みは、なんといっても、いつの間にか生じてしまうクラック(ひび割れ)ではないでしょうか…!!!
モルタルのひび割れは、モルタルが乾燥するときに収縮することで発生したり、建物のアバレが原因で発生したり、地震や車の振動等の原因で発生したりしますが、このひび割れはそのままに放置しておくと年々広がり、モルタル内部への水の侵入を許してしまいますので、塗り替え時には最優先でひび割れの補修を行ってから塗装工程に入る必要があります。
ひび割れの補修に使われるコーキング剤は、サイディングのときと同じ”変性シリコン”が用いられますが、コーキング剤を充填したことが、塗装後にできるだけ目立たないようにしないといけません。
ただ仕上がりだけを重視して、コーキング剤を使用せず、塗料を充填して仕上げる職人もいないわけではありませんので、ひび割れの処置をどうするのかを事前に確認しておくことが必要だと思います。
また、時折お客様ご自身がひびわれの補修をする際に、シリコンシーラントを使用している場合もありますが、そのような場合には、できるだけそのコーキング剤を削り取った後に、逆プライマーを塗布して、変成シリコンを充填し直してから塗装工程にはいるようにしています。
最後に
塗装は仕上がりが全てではなく、仕上がりに至るまでの工程が仕上がりと同じように大切です。
良い塗装というのは、仕上がりとその後の塗装の持ちの両輪が揃ってこそ良い塗装ですから、塗装を依頼する以前にチェックしなければならない事項を知っておくことは、後悔しない塗装工事に繋がる大事なポイントです。
どこをどのように下地調整し、何をどのように塗るのかを具体的に職人・業者との事前打ち合わせが必須です。
よほど信頼できる業者・職人でなければ、大きい会社だから、近所で工事をしている業者だから、感じの良い営業マンだから…などの根拠に乏しい情報に頼って全てお任せというのは、ハイリスクを抱えてしまうように感じてしまうのですが、いかがでしょうか…!???
最後まで読んでいただきありがとうございました。
これからも塗り替えを考えていらっしゃるお客様の、多少でもお役に立てる情報を提供していきたいと考えています。
塗り替えに関する問題・疑問などがございましたら、ぜひ「お問い合わせ」にお寄せいただきたいと思います。